大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和37年(ツ)75号 判決

理由

一  上告理由は別記のとおりである。

二  上告理由第一点について。

しかし、所論の点についての原審挙示の証拠によれば、亀田政雄は上告人(控訴人)の無権代理人として、原判示消費貸借契約、抵当権設定契約並びにその登記手続をなしたことが肯認される。所論の甲第二号証の二、乙第二号証に存する控訴人署名押印部分は右政雄か、他の第三者によつてほしいままになされたものである旨の原判示は、右控訴人の記名押印という事実行為は、無権代理人である政雄か、もしくは他の第三者がほしいままになしたものというのであつて、政雄が上告人の無権代理人である旨の原判示に副いこそすれ、なんら矛盾するものではない。論旨は原審の適法になした事実の認定を非難するもので、上告適法の理由とはならない。

三  同第二点について。

所論の点に関する原判示は簡省略に過ぎ十分意を尽していない憾みがあるが、挙示の証拠と対照すれば、原判決は昭和三五年九月頃上告人は実弟敬三(本件金銭貸借は同人の結婚費用に充てるために借用されたことは、原判決の適法に確定するところである。)とともに上告人らの親族で、かつ亀田政雄が被上告人らの先代から本件金員を借用し、これを担保するため抵当権設定契約をなし、その登記をなすに当り仲介の労をとつたいきさつから、被上告人らのため貸金の督促をなしていた訴外阿部蔀方において同人に対し、借用金を被上告人らに返済したい旨を申し向け、この意思表示はその頃阿部から被上告人矢野富子に伝達され、他の被上告人らもこれを了知し、また、本訴が第一審に係属中、上告人は本件借用金を弁済し本件訴を取下げる意図のもとに、上告人の妻を代理人として被上告人矢野富子の夫である被上告人矢野勝馬とともに、第一審裁判所に出頭させ、訴取下の手続を取ろうとしたところ、同裁判所の係職員において、上告人には、弁護士が訴訟代理人になつているので、念のため、同訴訟代理人に相談するよう勧告したので、訴取下の手続をとらなかつたが、以上の上告人の意思言動は、すでに被上告人らに伝達され、被上告人はこれを了知していることを認定した上、右は上告人において無権代理人たる政雄のなした本件各契約を追認したものと認めうる旨認定判断しているものと解しうべく、この認定は相当である。

ところで、無権代理行為の追認は、相手方に対してなさるべき本人の単独行為(一方的意思表示)であるから、その意思表示は明示的ないし黙示的になしうべく、また本人自からなすことなく、代理人によりもしくは使者伝達機関を介して、相手方に伝達させることによつてなしうるのである。

これを前示原判示事実について見るに、原判示各契約、抵当権設定登記の仲介をなした経緯から債権者たる被上告人らのため貸金の督促をしていた訴外阿部蔀に対し、債務を弁済する旨申出た上告人は、少くとも同訴外人を使者として被上告人らに対する追認の意思表示の伝達方を託したものと解すべきであるから同訴外人が被上告人矢野富子にこれを伝達し、同人においてこれを他の被上告人らに了知させた以上、ここに無権代理行為の追認があつたものというべく、さらに前示訴取下に関する経緯の存するにおいて、上告人の追認の意思表示は確定不動のものであるというに妨げない。

所論は原判決が適法に確定した事実を論難するか、原判決の認定しない事実を前提としてこれを非議するもので、採用に値しない。よつて民訴第四〇一条第九五条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例